哲学的で科学的、奥深い名作
ピクサー長編アニメーション20周年記念作品。
これまでも話題作の多いピクサー作品ですが、その中でもとても評判がいいので拝見いたしました。
正直、これまで見たアニメ―ション作品の中で、これほどよく出来た作品はない、と思いました。
名だたる名作を差し置いて、この作品が一番だと思った理由は、人の価値観を変え得る作品だと思ったからです。
私は、映画や小説の素晴らしいところは、一つの作品が、一人の人の体験となって、その人生を変え得る力を持つところだと思っています。
まさに、この映画はその力に満ちた作品です。
哲学的で、それでいて現代的で、とても科学的で、ときめくようなファンタジーで、実に奥深い。子どもが観ても大人が観てもちゃんとメッセージが伝わる、そんな作品だと思います。
鬱病のメカニズム
少女・ライリーの心の中にある、ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ビビリ、ムカムカの5つの感情。そのなかでカナシミは愚鈍で必要性がない、めんどくさい存在として描かれます。なぜなら、主人公たるヨロコビの足を引っ張る邪魔な存在だからです。
ポジティブであることを最上とするこの思想が、ライリーがのちのち”自分のことを否定されている”と感じる過程に関係しているように思います。
そして、元気で明るくてはつらつとして正直で、家族や友達思いというレッテルがはがされたとき、自分を肯定することができなくなるのです。
ライリーは鬱になります。
私は鬱病の経験者ですが、ライリーが鬱になっていく感じが、理屈でも感情でもわかる気がしました。
ヨロコビとカナシミが感情の司令部からいなくなる。そのことがあらわす意味がよくわかったのです。
カナシミの存在価値
前向きだけが正義ではありません。ネガティブよりポジティブの方が優れているという考え方は間違っています。
心にはカナシミを感じ、向かい合って、それを受け入れることで成長する力があります。
ストーリーの中では、ライリーのママの頭の中をのぞいたときに、カナシミがリーダーであることが明かされて、この世界のルールが変わります。
カナシミは誰にとっても愚鈍で、役立たずで、価値のない存在ではなかったのです。
脚本的にはここがすごく重要だと感じました。
これ以降は、カナシミは単なるやっかいものではなくなり、ライリーにとっては、カナシミをうまく取り入れることが大人になるということになります。
むろん、主人公はヨロコビなので、いつどうやってヨロコビがカナシミの存在意義に気づくか、が焦点になります。
そして、”カナシミはいらない子じゃない。むしろ活躍するべき”という結論には涙がでます。
英語のタイトルが「Inside Out(裏返し)」であることにしびれますね。
できれば繰り返し観たい
ヨロコビやカナシミなどの存在は、脳内のドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の擬人化であろうと思われます。
彼女たちが活躍するさまは、まさに今、私たちの脳内で起こっている出来事なのかもしれません。
私は自分のことをマイノリティだと感じているので、この映画にはずいぶんと”救い”を感じました。言い方を変えれば、”赦し”と言えるかもしれません。
まだご覧になっていなければ、オススメの一本ですので、ぜひどうぞ。
私はできれば繰り返し観たい。そう思える一本です。