読書 インプット道場

イン・ザ・プール 奥田英朗

2019年6月27日

スーパースターのデビュー作

少し古い話ですが数年前、読書家有志によるオフ会「読書会」の席で是非にと「イン・ザ・プール」の名を初めて聞きました。

調べてみると、テレビドラマ「Dr.伊良部一郎」や映画「イン・ザ・プール」など映像化されている作品でした。

直木賞作家の人気者である精神科医伊良部一郎シリーズが面白くないはずがありません。

これまで小説だけでなく、映画や舞台でも絶えず人気を博してきた訳は、主人公伊良部一郎のとんでもない人間造形と、彼の精神科医としてのそこはかとない魅力に尽きるそうです。

確かにこんなやつは実在する、という意見もありますが、私的にはちょっとあり得ない性質の持ち主だと思いました。

日本医師会の理事を父に持ち、総合病院の跡取り息子でマザコン。人が注射されるのを見ると興奮するという変質者で、患者はわけもなく注射を打たれる。相手が患者であろうと言いたい事を良い、思ったことはとりあえず実行する主義。見た目は色白デブでボサボサの髪にはフケが浮き出ている。

しかし、それでいて時に的確な助言で、頭を抱えた患者に痛快に釘を刺したり励ましたりする。

彼の患者となった人間は、最初は伊良部の行状に驚いたり呆れたりするものの、知らず知らず、伊良部と打ち解け、伊良部を信頼し、伊良部と共に時を過ごす中で悩みを解決していく。

そのさまを天才的とみるか、ただのヤブと断ずるか。

どちらにしても、深刻に悩むことから解放される爽快感は読む者の共感を誘います。

このようにしてこれまで多くの患者と読者を虜にしてきたスーパースター伊良部一郎の歴史的デビュー作こそ「イン・ザ・プール」なのです。

いかにして治すか

この本には5人の患者が登場します。

年齢、性別、社会的地位、抱えている悩みもそれぞれですが、患者たちは伊良部の徹底したプラス思考に触れ、みな凝り固まった思考をゆっくりとほどいていきます。

一貫して身勝手で自分本位な伊良部ですが、同時に患者に対してもどこまでも肯定的で、簡単なアドバイスはあっても、カウンセリングや何らの指導もしません。

先に同じ悩みに勝手に立ち向かっていって、悪ふざけとも思えるような結果を出して見せるようななんとも不思議な治療で、ある時悩みは悩みでなくなってしまうのです。

読者としてはたびたび「この人、病気悪化してんじゃん」とハラハラしたりするのですが、それも意外とちゃんとした裏付けのある行動だったりして、最後には見事に社会復帰できるのです。

また、それぞれ抱えている悩みが病気の形となって出てきているのだが、伊良部のメスは単にその病巣に入るだけではありません。

もっと根源的な、社会生活の中で人がまっとうに人として生きていくということの難しさや、構造的な社会悪といったものにもふと目を向けさせられるのです。

そしてそれが病の根っこのようなものであり、探してみれば私たちの身近なところにいくつもあるんだということに気づかされる。

さらにその一方で、逆に気づかないだけで人は常に多くものに支えられ、愛につつまれて生かされている。

それすら、自由奔放で傍若無人な伊良部から教えてもらえるような気がするのです。

読む”癒し”

読み終わった時に「なんとなく癒された」ようにも感じたし、一歩身近な病気の根から遠ざかったようにも思えました。

そこで”私ならどうか”と考えてみます。

私なら伊良部の患者になりたいか。

精神科医の先生で、いわゆる「まともな人」はいないと聞いたことがありますが。

どうせ変な人なら、ちゃんと治せる人の方がいいわけだけど。

まぁでも伊良部のように注射フェチじゃない方がいいかな。

毎日、注射打たれるのはちょっと。

だからとりあえずは本だけで、病気になる前に癒されておくことにしておきましょう。


 

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