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謎解きはディナーのあとで 東川篤哉

2019年6月28日

謎解きはディナーのあとで東川篤哉

突然の出会い

確か、電車の中の広告だったと思う。

「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 2011年本屋大賞」受賞作の本が目にとまりました。

本屋大賞と言えば、小川洋子「博士の愛した数式」や、リリー・フランキー「東京タワー」、このミスも獲った伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」に、湊かなえ「告白」など、超の付く話題作が目白押し。大賞は逃したノミネート作でも、映画化・ドラマ化されている作品が多い。

その本屋大賞で、2011年は本格推理が大賞を獲ったという。

失礼ながら作者の東川篤哉を存じ上げなかったため電車の広告をしばし見つめて、これは読んどいた方がいいだろうなと、ほぼ本能的に感じて、そのまま目的地の駅前にある本屋に向かいました。

さすが本屋大賞なだけにすぐ目につくところに平積みにされています。

1500円もしましたが迷う必要はありません。

読んでみると、まさにいわゆる本格推理でした。

本当にこれが万人受けまっしぐらの本屋大賞を受賞したのかと驚くほど、ちょっと一般の方には受け入れられないほど、まっすぐな本格推理でした。

本格推理とは

「本格」推理とは、推理小説の中でも純粋な謎解きを興味の中心においた作品のこと。

重心が謎解きなので、特に短編では「余計な」心理描写を排除して人物を記号化させ、殺人現場に現れた謎をロジカルに解明する課程を描きます。

この作品は、名探偵が登場して鮮やかな推理で淡々とトリックを暴く「パズラー」といわれる分野の典型です。

ありていにいえばこの手の短編連作小説は、読者が名探偵との知恵比べを瞬時に体験できるドリルのようなもの。

まず簡単に状況が説明されて謎が「出題」される。この部分は算数の文章問題の要領で、「よしおくんがリンゴを買いにいくのに1000円持っていきました」的な簡素簡略様式であることが重要です。ここでよしおくんの生い立ちや、リンゴを買うことへの想いや葛藤を描くことは「余計」である場合が多い。

要はわかりやすく謎の部分がくっきりはっきりと読者に伝えられればそれでOK。ここで助手役の人物があれこれと捜査するなかで、真相解明に必要な情報やヒントを与えてくれます。

そして名探偵が登場すると謎解きの始まり。

ここまでで公開された情報だけで、名探偵は必ず謎を解いてしまいます。

つまり、この時点で真相がわからない読者は名探偵よりも推理力が劣ることになってしまうのです。

なぜなら「なんとなくわかる」とか「第六感で」とか、そういう理由ではなく、万人が納得できる「理屈」がちゃんとあって、そのロジックのうえで真相が暴かれるのだから。

真相解明にいたる情報量は同じ。

大前提として名探偵と読者は「フェア」な立場で推理比べができるのです。

そして大概の読者に謎は解けない。

意外な観点からの切れる様な推理に、なるほど、そういうことだったのか、と驚きの感情で頭の中のもやもやが洗い流されて、やたらすっきりとした気分になる。本を読みながら、思わずにんまりと口元に笑みを浮かべる。

これがパズラーの魅力でしょう。

本格推理は文学たりうるか

こうした短編パズラーの仕組みを理解すれば、それがいわゆる「文学」として扱われにくいものであることがわかります。

ある種文学的な要素を「余計」なものとしてそぎ落としてしまうからです。

そして名探偵という特別な「キャラ」を強烈にアピールせざるを得ません。

記号化された人物群のなかで、もっともわかりやすくキャラ化されてなければ、面白くもないし説得力に欠けるのです。

こうして考えると、(ミステリ好きでない)一般の読書家の批判にさらされそうな要素が盛りだくさんではないでしょうか。

分野が違うのに同じ基準で見られて、あれが足りない、これが足りないと不満を投げられてしまうのは少し残念ですが、本格推理が「これが本格なの?」「本格ってこういうこと?」と思われながらも多くの読者の目に触れることは素晴らしいことです。

本屋大賞の受賞作の中では「異色作」と語り継がれることに違いありません。

それとも連続ドラマとかで映像化されて(本当に映像化されました)、これまでの輝かしい受賞作の中にいても馴染んでくるのでしょうか。

毒舌執事が安楽椅子探偵

本の中身にも少し触れておくと、ワトソン役の主人公や名探偵の設定がふざけていておもしろく、そこが万人受け要素になっています。

また名探偵が、名探偵を標榜している大人物でもなければ警察でもない。名もない青年で、しかも執事という人に仕える立場の人間であるという部分が面白い。

お金持ちというだけで偉そうにできるお嬢様に対して、絶対服従の立場にありながら驚くべき推理力を持っている青年が、毒舌をまきちらしながら事件を解決してしまうのです。

偉そうにしている人間を逆らえない立場の人間が理路整然とやりこめるのは大変痛快です。

しかも安楽椅子探偵です。

一度も現場に行かず、謎とその状況を聞くだけで、ズバリ謎を解明し犯人を断定してしまう。これはかなりカッコイイ名探偵なのです。

そんなことができてしまう(しかも腕も立つ)青年がなぜ名もなき執事をやっているのか全く不明ですが、この漫画チックな名探偵と、大金持ちの令嬢でありながらなぜか刑事になった主人公、お嬢様との人間関係がたまらなく楽しいのです。

誰にでも読みやすい本格推理

少しだけ専門的な話をすると、この本に出てくる6つの事件はすべて伝統的なフーダニット(誰が犯人か?)で構成されており、トリックも大がかりで奇抜なものではなく、シンプルな心理トリックを芯とするものが多い。

斬新で目を引くトリックは出てこないので安心して謎解きに取り組める反面、工夫こそ見られるがなんとなくどっかで聞いたことのある感じがしないでもない。

その分、キャラクターは奇抜で新しく、状況設定も現代的で分かりやすいので、古臭さは感じない。

また、あくまでユーモアに特化し他の味付けをしない点も割り切っていて好感が持てます。

「誰にでも読みやすい本格」を追求したというだけあって、狭き門だった伝統的な本格推理の間口を広げた作品と言えるのではないでしょうか。

余談だが、宝生麗子を北川景子、風祭警部を稲垣吾郎、影山を松田翔太あたりでドラマ化したら結構流行るんじゃないかな。

頭脳明晰で運動神経抜群で美形な名探偵影山を誰がやるかがポイントですね。

私の考えた配役は、笑顔でさらりと毒舌を吐きつつも冷たい目をキラリと光らせてくれそうな若手大物俳優を選んだつもり。

(実際には、景山を櫻井翔が、風祭警部を椎名桔平が演じました。そして宝生麗子は北川景子で正解!)

批判について

「本格の割にミステリがしょぼい」「トリックが小じんまりとしていて迫力がない」「キャラが派手で謎解きが地味」など辛辣なレビューを目にしました。

本格の本格たる推理部分の魅力についての批判だと思いますが、作者本人があるインタビューで「ミステリマニアじゃない人にどう、本格ミステリを読んでもらうか考えた」「ミステリマニアにも楽しめて、それでいてミステリにはあまり詳しくない一般の読者にもわかるように気をつけて書いた」と言った意味の発言をしており、意図的に謎解きの敷居を低くした可能性があります。

確かに読者の力量によっては、解決編を読む前に犯人とその特定にいたるロジックを言い当てることができた人もいるかもしれません。

しかしそれには、ユーモアによって巧妙に隠された伏線を残らず拾い集める洞察力が必要です。

そうやすやすとはいきません。

推理ファンならそこに勝負をかけられるし、推理ファンでない読者には、ユーモアをユーモアとして楽しんでもらいながらも、ちゃんと「やられた感」を味わってもらえる仕掛けとなっていて、とてもよくできていると思います。

ほとんどの読者をおきざりにして驚天動地のトリックと究極の推理力を戦わせる趣向ではないということを前提にする必要があります。

普通よりちょっと頭の悪いぐらいの主人公に「もしかして、お嬢様の目は節穴なんじゃないですか?」と聞いてしまいたくなる程度の、割と単純なミステリと謎解きでちょうどいいのです。

私は色んな意味でよく考えられたパズラーだと思いました。

続編が書かれているそうだが(3部作となっています)、このクオリティで量産は難しいのではないでしょうか。期待が膨らみます。

 

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