すこぶる評判のいい映画
ある映画好きの辛口レビューブログを見ていて、突出して高評価を得ていたため気になっていた映画です。
また、脚本家をめざすシナリオライターのたまごの人たちからの評判もよいので、脚本的なうまさもあると思います。
後述しますが、原作のない監督のオリジナル脚本ということなので、個人的にはとても参考になると感じています。
自分にもある”イタイ”部分を見せつけられる
「さんかく」は、アホな男女が繰り広げるブラック・ラブコメディです。
映画スタート約5秒で、今後ストーリーを泥沼にけん引するきっかけが仕掛けられており、男の習性を鋭く見透かしたかのような幕開けとなっていて、とても面白い。
主人公の男女は、一言でいえば”イタイ”大人。
人のことはちゃんと見えていて一人前に批判もできるのに、自分自身のことはからきし見えていなくて、自分自身をコントロールできない。
とくに恋愛感情が絡むと俄然盲目的になるということは多くの人が経験して大人になるわけですが、そのあたり冷静さを欠いていることに気づけないでいる。
ただし、主人公達がどうしようもなくダメであることも、この映画を冷静に見ることができる大事な要素です。
「客観的に見て私はさすがにこんな人間ではない」と言いきれるおかげで、他人事と笑って見ていられるしくみ。
ところがどっこい。最後まで見た時に、はたして自分はまったく関係ないと言い切れるかどうか。
男は男、女は女の主人公に知らず知らず感情移入して、いつしか「それ少しわかる」と共感してしまう場面があるに違いありません。
そして一度共感してしまったが最後、自分の体験をすっかりさかのぼって、もしかしたら自分にもこういう一面がどっかにあったかも、と赤面してしまうのではないでしょうか。
前半と後半のギャップ
ストーリーは前半と後半に大きく分かれていて、前半の平和で淫靡な雰囲気から、パタリと音を立てて後半の一種のホラーを感じる狂乱の世界へと発展。
前半の見どころは、元AKB48の小野恵令奈演じる桃の小悪魔的挑発です。
計算ずくの行為であるはずなのに、それでも可愛いと思わせる魅力は小野恵令奈特有のものでしょうか。
若干ぎこちないぐらいの彼女の演技が、逆に絶妙にこの役の個性とマッチしていて、とても素晴らしいと思います。
桃の考えていることが最初は理解できないと思っていたが、最後まで観てみると、なるほどこの年頃の少女の浅はかな自尊心が全ての元凶ではないかと理解。
桃の役どころの成否がこの作品の説得力の大半を担っていたように思いました。そして、私はとても成功していると思います。
後半のみどころは、田畑智子演じる佳代のキレっぷりです。
田畑智子は前から良い演技するなぁと思っていましたが、彼女の真骨頂はこのキレキャラだったのかもしれません。と思えるほど、卓越した演技力を披露していて、とても怖い。
リアルすぎるウザい演技
そして全体を通しては、高岡蒼甫演じる百瀬のリアリティでしょう。
高岡は男らしいカッコイイ役柄が多かったようだが、このダメ男の主演は完全にハマり役。
「あ~、いるいるこんなやつ」と指さしちゃうくらいホンモノのウザさをさらけ出していて、高岡の個性とまったく違和感を感じません。
演技がうますぎるのか、たんなる地なのかはわかりませんが、とにかくこの男の心の動きが見る者にとって手に取るようにわかる見事な演技でした。
吉田恵輔監督が描く三角関係
おしなべて、小野、田畑、高岡の配役こそがこの映画の最大のウリかもしれません。
そして彼らの持てる潜在能力を出し切るシナリオの魅力。吉田恵輔監督オリジナルのシナリオだというからなおさら凄い。
同監督の『机のなかみ』『純喫茶磯辺』もオリジナル脚本による三角関係をテーマとした映画だそうです。とても興味がわきますよね。