読書 インプット道場

町長選挙 奥田英朗

2019年7月5日

町長選挙 奥田英朗

伊良部一郎の神秘のベール

神経科医伊良部一郎シリーズの第3弾。

回を重ねるごとにその異常性を増してきている伊良部一郎ですが、第3弾にしていよいよ彼の全貌がすべて明かされてしまいます。

私が思いますに、伊良部はパっと見にはかなり変な人だけど実は結構な大物なんじゃないか、と思わせるミステリアスな雰囲気をまとっており、そこが最大の魅力ではないかと感じていました。

だから、こんなやつに治療されてたまるか、と言いながらも結局患者たちは彼を求めてやってくる。

自由奔放なようで、医的な裏付けのある言動で時に患者と読者を驚かせる。

そんな凄さがチラチラと見えるから、マザコンだったり金銭感覚が狂ってたり注射マニアであったりすることは彼の本質ではないと感じていたのです。

しかし、この第3弾では、もはや彼はただの「あほう」となって、子供並みの知性と倫理観しか持ち合わせてない金持ちのマザコンであることが断言されています。

実はただのバカではなくて、本当のところ治療においてはオーソリティーであるというミステリアスな魅力は完全に否定されたように感じました。

これはとても残念な展開です。

それでも、素晴らしい

登場人物の病状も「イン・ザ・プール」の時のような深刻さはなく、「空中ブランコ」の時のように患者の人生にフォーカスする展開もありません。

あるのは伊良部一郎の人物としての面白さであり、患者と病気を克服する達成感はにじんできませんでした。

と、あえてここまで否定的に書いてきましたが、本当のところ一冊の本として読んだ時に、すごく読みやすいしとても面白い本だと思いました。

ただシリーズ物であるので、初期の設定との差異など過去作品と関連付けて批判されてしまうのは仕方のないことかもしれません。

実は私もそのことを無視できませんでした。

のであえて冒頭に批判めいた文章をつけましたが、本当はこの本は素晴らしいのです。

見事に人物を切りとる

「町長選挙」には、恐らく誰もが知っている有名人がモデルとなっているであろう登場人物がやたらめたらでてくるのですが、とにかくその人物らしさというかその人物のあり様が短いセンテンスの中に実に克明に切り取られていて、その鮮やかさにハッとさせられます。

読んでいて、この人ならこんなこと思ってるんだろうし、きっとこう言うだろうなと思わされる。

実名でないことにむしろ違和感を感じるんだから、さすがの一言。

だがしかし、見どころはそこだけではありません。

抜群の安定感

なにがすばらしいかというと、これまで完全に秘密にされてきた「マユミ」ちゃんの私生活がこの本で初めて垣間見えるところです。

あれだけの存在感がありながら、今までまともにセリフらしいセリフがなかったというのも凄いのですが、そのマユミちゃんの素顔が暴かれるのはファンとしては嬉しいではありませんか。

その興奮がマックスに達したのは第3話の「カリスマ稼業」。

マユミちゃんのバンド仲間「久美」が登場し、二人の罵り合いや、さらには彼女たちの書いた楽曲の詩も登場する。

この詩が極めて秀逸で、あまりのできのよさに最初は笑えてそしてじわじわと感動してしまいました。

伊良部よりもマユミちゃんのカウンセリングの方が効果が出るという第2話「アンポンマン」の結末もかなり捨てがたいのですが、この一冊からどれかと言われればやはり「カリスマ稼業」を選びます。

安心して読めるお約束パターンに、明るくてハッピーな結末。この安定感。読んでみるべきです。

 

\みんなに紹介してね/
この記事のタイトルとURLをコピーする
created by Takoyan

-読書, インプット道場
-

© 2020 ゴリアスの副業道場