朗読劇

苛立ち(男1:30分)

タイトル:苛立ち

男声1 30分程度

現代劇

 

 夜は黒々と春の空気を汚していた。月は出ていない。僕は一人、やるべきことを失って部屋の中で夜の泣き声を聞いていた。春の夜は静かなほど生き生きと動いている。こうして耳を澄ましていると、それが泣き声のように聞こえてくるのだ。長い間そんな音を聞くこともなかったが今日はなぜか幼い頃に知っていたその音を聞いた。

 気がつくと蒲団の上に仰向けになり、天井を眺めてぼんやりとしている。何時からこうしているのか、何も考えることができない。今日は疲れた。酒のせいもあるかもしれない。目覚し時計をセットする。明日の朝もバイトだ.つらいが五時には起きなくてはならない。僕が遅れるわけにはいかない。今から、たったの数分でも寝ておいたほうがいいだろう。

 蛍光灯の紐をひく。もう寝よう。

 

――――。そうだ、今日とても悲しいことがあった。その印象で胸がモヤモヤする。今はなんだか思い出せない。世界中を敵にまわして独りぼっちになったみたいな、昔両親にひどくしかられたときのような、

そんな悲しい気持ちだった。

 僕の両親はよく僕を叱った。そしてそんな日の眠れぬ夜にあの夜の泣き声を聞いていた。そういえば、

そんな小さな頃からインチキばかりやっていた。そのたびに折檻をうけたが、ばれなきゃ何をやっても平気だった。

 悪いことはたくさんした。

 それなりに勉強もした。

 恋もした。

 気がついたら、

なんだか大人になっていた。

 自覚なんて感じる暇もない。

 なんとなく大学に来てみただけ。僕は比較的、なんでもこなせるほうだ。だから真面目にやる気などさらさらない。それは馬鹿なやつが損をするためにやることだ。

皆が色々と自分の事を考えはじめたりしても、

 ま、いいか。

 それでなんとかやってこれた。僕はいつもこうして嫌な事をアトマワシにしてきた。なんとなく、

それとなく頑張ってるふりだけしておけばいい。それで何とかなるもんだ。適当に嘘もつける。言い訳もその場しのぎの嘘も熟達だ。そして僕はそれで充分やってこれた。つまずいた事なんてただの一度もなかった。

 僕のことを悪く言う人もいるが、

ただのやっかみにすぎない。僕のどこがまずいというのだ。否定したいやつは否定すればいい。それでも僕は、

こうして生きてきた。僕はちゃんと生きているのだ。

 

窓から静かに風が入ってくる。春とはいえ夜はまだ寒い。蒲団にくるまって目をつむる。酒の匂いがしたが、そのへんに転がっている酒瓶からなのか自分の口からなのかはわからなかった。

 ああ、頭が痛い。

 大学に入って、一人暮らしをはじめたのはすぐだった。金はない。

 あれから毎日のようなバイト尽くしの生活が始まった。

 ほんとによく働いた。評価も良かった。何時しか僕は、

いなくてはならない存在になった。でも、働いても働いても、金はこの手には残らなかった。そりゃ、働く以上によく遊んだからだ。そうやってバイト先の連中に余裕を見せることに、

えもいわれぬ快感があった。

 将来の夢。そんなものもあった。一応、今でも心のどこかに憧れのような気持ちは残っている。でも、だからといって夢とか希望とかを、

口にするのはなんだか気恥ずかしい。人生とか、将来とか、考えては見るけれど。とりあえず今は今のままがいい。それで充分だ。

 ふと目を開けるとカーテンがゆれるのが見える。その波のようなしぐさを眺めていると、目が暗さに慣れてきた。

 僕はすぐに学校には行かなくなった。僕の学ぶべきことを、

そこに見つけることは、なかなかできなかった。そしてそのかわりにバイトに通った。朝早くから仕事に出ることもしょっちゅうだ。別に好きでやってるだけではない。給料も増えたが、

僕はその間にギャンブルと酒の味を覚えた。バイト代だけでは生活が続けられなくなるまで時間はかからなかった。バイトの後輩にまで、

借金をたくさんした。前借もある。嫌でも働かなくてはならないのだ。

 一度身に付いた贅沢はそう簡単にはぬぐいきれるものではない。だからといって親になんとかしてもらうわけにはいかない。甘えて、頼って、

なんて人生はまっぴらだ。僕はそんなに弱い人間ではない。

 でも、正直言ってもう疲れた。こんなになるまで働いて寝ることもできない生活。これ以上働くのはごめんだ。早朝のバイトはきつい。何よりも、

朝起きるのがつらい。僕は昔から夜型人間だったし、神経質な部分もあってそうやすやすと安眠そして早起きといったリズムは作れなかったのだ。

やけに意識が冴えている。こうして目が慣れてくると電気がついているのと同じだ。物音がすればそこに目がいくし、何かのきっかけがあれば僕はすぐにでも起き上がって電気をつけてしまうだろう。

 

 眠れない。

 意識は眠りに近づいているのだが。

 心のどこかにくしゃくしゃになって絡まっている紐がある。ほどこうとすればするほど、必ずどこかに結び目ができてしまうやつだ。

 何かが気になっている。だから僕は眠れないのだ。

 そうだ。今は、今日の悲しかったことが気になる。

 今日とても悲しいことがあった。でもそれがなんだかは思い出せない。もやもやと記憶がかすんでいる。飲み過ぎでもないと思うが。

 駄目だ。明日も朝が早いのだ。行きたくはないが僕が行かなくては仕事が始まらない。もう寝よう。もう、

寝よう。そういいながらいつまでも蒲団の中で起きている事はよくある。そして気がつくと、とても寝ていられないような時間だったりして、結局一睡もせずにくたびれた身体のまま悶々とただひたすら朝を待つのだ。

 なんだか腹もへってきた。

 気分も悪い。

 とっさに外食を思い浮かべたが、

そういえば金がない。そしてそんな時間でもない。

 僕はいつでも時計に追いまわされている気がする。無論、誰の言うことも聞かず、好き勝手なことをやっているだけなのだが、

自由を狙って始めた一人暮らしも、お金に困って始めたバイトも、どちらも多くの自由とお金を僕から奪ってしまった。

 僕はいったい、

何をやってるんだろうか。

 金も時間も、あるとすぐにあるだけ使ってしまう。こまめに節約もしているつもりなのだが友人からはよく贅沢な生活ぶりを揶揄される。

馬鹿な。彼らは僕が苦労をしている姿を知らないのだ。僕は無駄な出費は嫌いだし、

衝動に動かされて大量に、買い物をしたりもしない。ただなんとなく手元にはいつも金がない。そして暇もない。それだけのことなのだ。しかしなんにもないと僕は食事もとれなくなる。毎日はさすがに厳しいが、食事をしないで一日を過ごすことは、

慣れてしまえばなんとかなるもんだ。ただ、僕の場合どうしても夜が長くなるとそのままではすまなくなる。空腹感も時には理性を押しのけてわがままをいう。腹が減って眠れないなんてこんなセツナイ夜はない。

 

どうにも眠れない。

疲れている。眠たいとも思っている。実際蒲団に入って目を閉じている。なのにいっこうに眠りがやってこない。いったい僕は眠りのためにあと何を用意すればいいというのだろうか。

空腹感も気になる。

そうだ、きっとそれだけのことなんだ。

一応、朝起きてからの行動をシュミレーションしてみる。やはり今すぐ寝るのが妥当に違いない。なのになぜだろう。頭でわかっていることに身体が服従しない。なにかそうすることに理由があるかのような反抗。枕の角度が気に入らない。明日の服装を決めかねる。目覚し時計をセットしたかどうか確認したくなる。

少し起き上がって見る。

だるい。強烈な倦怠感が僕を蒲団に引き戻す。

どうにもこうにも仕方ない。眠いのに眠れない。かといって身を起こすこともままならない。それでも脳の一部が一種の緊張状態にあるのだろうか。とても寝てはいられない。

仕方ない。もう起きていよう。腹もへっているし。しかし、今から朝まで何をしていよう。ま、そんなことはどうでもいいか。

僕はもう一度ゆっくりと起き上がり、蛍光灯の紐を引いた。

凄まじい閃光。目の裏まで焼け付くようなその明るさに、しばらくそのまま立ちすくむ。

そうだ、とりあえずトイレにいっておこう。

これが今日の結論だ。いったんそう決めて僕は重い身体を引きずりながらトイレに入った。僕のウチは木造の古いアパートだが、キッチンもあり、トイレも風呂も独立している。そして六畳とはいえなかなか広い。万年床からトイレまでも僅かのことだが歩かなくてはならない。しかも得体の知れない障害物で畳の上は足の踏み場がないとくる。僕は酒瓶をかきわけ気合でもってトイレに入ると、便所灯りの薄暗さにほのかな安堵を感じた。ようを済ましている間にだんだん目の奥が冴えてくる。自分から排出される尿のアルコール臭に、もやもやした運動神経も目を覚まし活動的な気分になってきた。ああ、今日は徹夜だな。というのが身体にも頭にも浸透して腹の虫も喜んでいるようだ。なにか食べ物を用意しようと、キッチンに出た。

またしばし動きを止める。

いや、駄目だ。おとなしく寝たほうがいい。

僕は静かにきびすを返した。

 僕のウチは清潔さが一定ではない。基本的には掃除は嫌いだ。それでもたまには綺麗にしたいときがある。しかし中途半端は嫌だ。どうせならやる気を奮発して夜通し一気に掃除してしまったほうがいい。やるときはやるのである。隅々までこだわったりもするのだ。そうして部屋が綺麗になると僕は返り血を浴びて埃まみれになる。綺麗な部屋に汚い男では不釣合いなので僕も風呂に入ってさっぱりするのだが。面倒くさい。部屋が汚すぎるのだ。なかなかやる気など起きるはずもない。それはともかく、今の我が家はとても汚い。掃除する気もない。そして部屋が汚いとキッチンもやばい。食器の洗い物がどっちゃりと放置してある。暖かくなってきたせいで生ごみには黴が出てきている。そしてウチで一番高価な物の一つであるフライパンは、なにか怪しげな黒く粘り気を帯びたものに覆われて辺りに異臭を放っていた。

これは駄目だ。とてもなにか作る気にはなれない。暗い気持ちになって部屋に戻り、電気を消してまだ暖かい蒲団に入る。もし、このまま寝られたらどんなにいいだろうと期待するが、五分も我慢できずにのそりと起き上がる。

ふらふらする。頭が痛いが仕方がない。もう起きているしかないのだ。バイトに行くのに少し体力もつけておかねばなるまい。バイトのせいだと思うと腹もたつが、この際やるしかない。僕は家事の中で食器洗いが一番苦手なのだ。僕はただならぬ決意でもって炊事場に立った。まずは何を食べるかだ。そいつを先に決めておくと、必要なものだけを選んで、洗う食器を最小限に抑えることができる。

無意識に冷蔵庫を開けた。自然と笑いがこみ上げてくる。ウチの冷蔵庫に中身などあるはずがない。僕は無駄に大きい冷蔵庫の冷たい空気の中に、軽い自嘲を投げ入れて扉を閉じた。さて、何を食べようか。

 僕は非常食置き場と称して、冷蔵庫の横にダンボール箱を設置している。こちらはなかなかの活躍ぶりだ。とはいってもたいしたものではない。大安売りを見つけては買ってくるインスタントラーメンやレトルトカレーを、ただ無造作に放り込んでいるだけの箱だ。そして今日もそのラーメンとカレーの残党が、今や自分の番かとてぐすねを引いて待っていた。こいつは頼もしい。

 次におかまを見た。ご飯は炊いていない。今から米を研いで、ご飯を炊いたりするのは面倒だ。食べたいときに、好きな量だけすぐに食べることができなければ駄目なのだ。意味がない。それにお米の量も若干乏しい。となると今すぐになんとかなるのはラーメンだけか。もう一度怪しい食器達を見つめて嘆息する。ぱっと見では箸が見つからない。さらに腕まくりをして皿やら丼やらの間をまさぐる。時に異臭が鼻をつくが気にしない。皿の陰に一本、コップの後ろにもう一本。互い違いだがこれも気にしない。ただの油汚れとは思えないが、とりあえずスポンジに洗剤をつけて箸をやっつける。箸のほうはすぐになんとかなるのだが、鍋のほうはほんと強敵だ。いったん中の不気味なものを水に流す。するとやはりなにか硬いものがこびりついている。スポンジで挑戦。奴は軽い抵抗のあと、意外とあっさり負けを認める。異物がなくなると後はくまなく鍋を洗う。隅々まで磨き上げた後、水を入れて一度火にかける。油が浮いてくるのを確認すると、もう一度スポンジに洗剤をつけて洗い直しだ。

 食べるものがラーメンと決まれば、洗い物は箸と鍋の二つで済む。丼にわざわざ移し変えるのは面倒だ。洗い物が増える。

 泡を水で流しきったら、コンロに乗せて水分を完全に蒸発させる。素早く軽量カップで水を計った。ここはどうしても適量でなくてはならない。インスタントラーメンの袋にある作り方を何度も読みながら、正しく作るのである。キッチンタイマーもある。時間も正確に計るのだ。こうしておかないとなかなか食べる気がしない。本当は疲れているんだからそんなことはしたくないのだが、習慣が僕をそうさせていた。こうした几帳面さもバイトで培い、そして評価されてきた部分なのだ。僕は間違ってない。なのに最近の若い連中はなかなか言うことを聞こうとしない。駄目な奴ばかりだ。彼らはどうして細かいことをいいかげんにすましてしまうのか。ほんのちょっとした注意が払えない。彼らには徒党を組んで仕事をさぼる癖がある。いくら僕が口をすっぱくしてもなめられていては効果がないのだ。そうなのだ。僕は奴らになめられている。僕は馬鹿にされている。

 少しずつお湯が沸いてくる。沸きかけのお湯を見ていると、だんだんうんざりとした気分になってきた。心の中の紐が何かに引っかかっている。何かとても重大なことがそこに眠っているような気もする。ああ、駄目だ。今はそれよりも身体がだるい。洗い物の山を見たときから予想はしていたものの、僕は食べる前にすでに疲れ果てていた。また急に眠気が襲う。

 いや、もう遅い。起きると決めたのだ。今更寝ることは許されない。眠気覚ましにもう一度箸を水ですすぐ。ついでにコップも洗ってみた。なみなみとついで一気に飲み干す。コップをコンロの横においた。とたん、強烈な吐き気と眩暈にトイレに駆け込んだ。驚くほどの勢いで、おびただしい量の水分を口から便器に流し込む。ひどく酒くさい。

 おかしい。何かが変だ。

 所在のわからぬ違和感が僕を不安にさせる。

 何も思い出せない。いったい何があったというのだ。僕はいったいどれだけの酒を飲んだというのだ。頭が痛い。

 じっとしていると耳が聴力を取り戻したのか、鍋から水が沸騰する音が再びよみがえってきた。

 腹の中はもう空っぽに違いないが、先ほどまでの食欲はない。僕は便所に座り込んだままじっと水が蒸発していく音を聞いていた。

 僕は奴らになめられている。

 僕は奴らに、

なめられている。

 何なんだ。あいつらは。

 この僕を差し置いて。お前らだけで何ができるというのだ。

 僕がみんなの為に毎日頑張ってきたんじゃないか。

 いったい僕が何をしたというのだ。

 胸のあたりに新たに激しいものがこみ上げてきた。

 ふざけるな。

 お前らを育ててきたのは、ほかでもないこの僕じゃないか。

 いったい、どうして。

 もう一度こみ上げてきたものを便器に吐き出した。やはり酒の匂い。

 いったん立ち上がりコンロの火を消す。蒸気が顔の前に立ち上がってきた。頭が痛い。朦朧として逃げるように蒲団に倒れこんだ。空き缶と空き瓶が部屋中に転がっている。確かめるまでもなく酒だろう。これを、これだけの酒を全部僕が飲んだというのだろうか。

 突然、目の前が真っ暗になった。何も見えない。

 僕は一人だった。

 お前なんか、もういらない。

 あんたがいても、うるさいだけだ。

 お前は邪魔なんだ。

 振り返っても見方はいない。怖い顔に囲まれている。馬鹿にして笑っている。みんなが僕をけなしている。僕を、蔑んでいる。

 枕もとにバイト先の制服が丸めてあった。手にとって広げてみると少量だが血がついていた。反射的に右手を見る。やはり僕のものでない血が付いている。軽く握ってみると骨がきしんで熱い。どうして今の今まで気がつかなかったんだろう。僕は本当に重大なことを忘れていた。僕は聞いてしまったんだ。

 ああ、思い出した。

 奴らは言った。あいつなんかいらない、もうこないで欲しい。

 瞬間は覚えていない。僕は奴らの前に飛び出して、殴っていた。気がつくと僕は。もう抵抗を止めてしまうまでに殴って、僕は。バイトをクビになったんだ。僕ははめられたのだろうか。上司の気づくのが遅ければ、僕は彼を殺していたのかもしれない。そうだった、僕はバイトをクビになったんだ。

 殴っても殴っても、それでどうなるでもない。僕は変われない。意味のないことだ。僕がやりたかったことはこんなことじゃない。こんな筈じゃなかった。

 奴がどうなったのか、僕はどうやって帰ったのか、いったいどれだけの酒を飲んだのか。その先は思い出せない。僕はなんなんだろう。何してるんだ。

 奴らの言うとおりだ。僕の居場所なんてないんだ。僕の存在していい場所。信じていたかった。もういい。全てを否定してくれ。ああそうさ、そのとおりさ。もう僕は駄目だ。

 制服をつかんだまま僕は蒲団の中に潜り込んだ。このまま消えてしまいたかった。

 いいんだ。もう行かなくていいんだ。もう、行くバイト先なんてないんだ。

 僕はいったい何のために今まで、なんて馬鹿なことを、

「なさけない」

「ばかばかしい」

 そりゃあ、僕は駄目な人間さ。まともな生活もしてない。でも本当は今の自分から変わりたいんだ。自分がいけてないことなんか自分が一番知ってる。誰かに尊敬されるようなもんじゃない。今のままこの僕が生きていても意味などあるものか。自分のこともちゃんとできないくせに、傲慢でいい加減で嘘つきで臆病者で適当にしかやる気も根性もない。もう何年も何年もこんな自分と付き合ってきた。生きても生きても治らない、僕は壊れた人間なんだ。壊れたまま人として生活できぬのなら、もう生きていく価値などない。見ろ、これが現実だ。そんなもんさ。なにかに期待していた僕が馬鹿だった。僕は一人なんだ。ならばもういい!もう、こんな人生たくさんだ!

「くやしい」

 変わりたい。変わろう。

 僕は生きてやる。こんな僕だって、僕にしかできないこともある。今から自分を治したっていいじゃないか。このまま情けないまま生きたくない。だって、くやしいじゃないか。

 ああ、僕の今後は?僕の将来はなんだ?僕の未来はどうなってんだ?

 希望は!人生は!

「ばかやろう」

 僕は蒲団に潜り込んだまま大声で叫んで目を閉じた。

 すると突然びっくりしたように激しい音をたてて目覚し時計が騒ぎ出した。僕はもう一度見を起こし、窓をガラと開けて、白く透き通った空に時計を投げ捨ててから、蒲団に戻り浅い眠りについた。 

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