ボイスドラマ

黒い羽根募金にご協力を(男3女2:25分)

タイトル:黒い羽根募金にご協力を

男声3(4)、女声2、25分程度

ヒューマンドラマ、恐怖、感動

ファンタジー 

岡田町子(65)余命宣告をされた高齢女性
真田政人(42)町子の担当医
吉村紗代(さよ)(14)小児脳腫瘍で近いうちに亡くなりそう
黒い羽根募金(??)寿命の募金を迫る死神
山浦浩二(34)町子のフィアンセだったが早くに亡くなった

 

シーン1

天の声「とある癌病棟で、岡田町子は医師の真田と向かい合って座っていた」

町子  「やっぱり。そんなに悪いんですね。私」
真田 「正直、今あなたが私の目の前で倒れても不思議ではないと思います」
町子  「余命0日ってことかな。ちょっと笑えますね」
真田 「笑えませんよ。今、生きてらっしゃること自体、奇跡に近いんです」
町子  「そうね。私、やり残したこともないし、それでいいわ。ただ」
真田 「ただ、なんですか?」
町子  「痛いのはあまり好きじゃないの。私、何も悪いことしてないんだもの。痛いのはヤ」
真田 「わかりました。全力を尽くします。あと、結局、お呼びするご家族はいないということなんですよね」
町子 「私は独り身です。お葬式を出してくれる人もいませんから」
真田 「私たちは、もう貴女の命を救えません。そのことは謝らせてください」
町子 「何言っているんですか。人はいつか死にます。私は、それがもうすぐなだけです」
真田 「申し訳ありませんでした。最後まで痛みはできる限り減らします」
町子 「真田先生。本当にありがとうございました。私みたいなおばあちゃんのことなんて早めに忘れてくださいね」
真田 「それと、吉村紗代ちゃんのこと、ですけど」
町子 「ああ、紗代ちゃん。もう近いのね、あの子も。小児がんなんて、この世からなくなればいいのに」
真田 「いつもキレイに写真を撮ってくださることを、病棟のみんなも、ご家族もすごく喜んでいるんですよ、さすがプロだって」
町子 「写真のプロだったのは昔の話よ。今はただの趣味」
真田 「特に紗代ちゃんは、岡田さんの写真が大好きで。病棟からいなくなっていくみんなの写真を全部持ってるんですよ」
町子 「そうね。紗代ちゃん、優しいから」
真田 「その紗代ちゃんからお手紙を預かってます。どうぞ」
町子 「ありがとう。紗代ちゃん、良くならないんですか?」
真田 「すみません。医者としては、紗代ちゃんの容体を詳しくお伝えすることはできません。でも」
町子 「何かしら?」
真田 「真田という一人の人間の独り言だと思って聞いてください」
町子 「はい」
真田 「彼女も必死に戦っています。しかし、脳腫瘍はかなり進んでしまいました」
町子 「そうなのね、かわいそう。いくつでしたっけ」
真田 「まだ14歳です」
町子 「きっと痛いよね。苦しいよね」
真田 「あの子の痛みを全部取り除くことはできないんです。私たちだって、悔しい」
町子 「私がもう少し生きられるのなら、紗代ちゃんに寿命を上げたいぐらいよ」
真田 「岡田さんも、残りのお時間を、少しでも」
町子 「ありがとうございます。次に会うときは、最後かも、ですね」
真田 「お大事に」

シーン2

天の声「病室の町子が、なんとなく扉に視線を向けると、扉がゆっくりと開いた」

紗代 「町子ちゃん」
町子 「あら、紗代ちゃん。今日は調子良さそうね」
紗代 「町子ちゃんは?大丈夫?痛いところあるの?」
町子 「大丈夫だよ。どうして?」
紗代 「だって、泣いてるもの」
町子 「え?私、泣いているの?」
紗代 「うん。泣いてるよ、町子ちゃん」
町子 「おかしいわね。なんで、泣いてるのかしら、悲しくないのに。変よね」
紗代 「変じゃないよ」
町子 「そうかしら」
紗代 「紗代もあるよ。悲しくないのに、涙が勝手に出てくるの。病棟のみんなもそう」
町子 「どんな時に、泣いてるの?痛い時?苦しい時?」
紗代 「ううん。違う。痛かったり苦しかったりすると、もう生きてるのが嫌になるけど、そんなに涙は出ないかな」
町子 「そうね。私も多分そう」
紗代 「きっと病棟の誰かがいなくなって、次は自分がいなくなるのかなって思う時かな」
町子 「そっか。それは、私も涙、出る」
紗代 「でも、パパやママには見せられないから、ベッドの近くに鏡を置いてるの」
町子 「泣いてるところは、見られたくないものね」
紗代 「でも、涙が出るってことは、泣きたいんだと思う、本当は」
町子 「パパとかママも、本当は、泣きたくても、泣かないでいるのかもね」
紗代 「そっか。でも町子ちゃんは、無理せずに、泣きたい時は泣いてね。私、誰にも言わないから」
町子 「うん。ありがとう」
紗代 「あ、そうだ。町子ちゃんの写真。もらっていい?」
町子 「うん。もちろんだよ。ここにあるやつからあげるね」
紗代 「ありがとう。大事にする」
町子 「あとさ、カメラも、もらってくれる?」
紗代 「え?いいの?」
町子 「最近、全然写真撮ってあげられてないから。私の代わりにみんなを撮ってあげて。紗代ちゃんに任せるね」
紗代 「そっか、わかった。ありがとう。じゃ、もらうね」
町子 「うん。じゃあね」
紗代 「じゃあね。また会おうね」
町子 「うん。また会おうね」

シーン3

天の声「町子は病院の屋上に来ていた」

町子 「あーあ、また14歳の子供に励まされちゃった。あの子は強いなぁ。でも私は。まだ生きたいんだな。きっと、まだ生きたいんだろうな」
黒い羽根「でも、あなたはもうすぐこの世を去ります」
町子 「うわ!誰?」
黒い羽根「私、黒い羽根募金と申します。以後お見知りおきを」
町子 「黒い羽根、募金?」

黒い羽根「あなたのように寿命を持て余している方に募金を募っているのです」
町子 「死ぬ間際になるといろんなものを見るっていうけど、あなたもそれなのね」
黒い羽根「よくご存知で。死神と呼ばれることもありますが」
町子 「死神かぁ。さすがにこの状況だと死神が来ても不思議じゃないわね」
黒い羽根「私の仕事は募金です」
町子 「募金ですって?私それほどお金持ちじゃないわよ」
黒い羽根「いいえ、黒い羽根募金はただの募金じゃございません。寿命。あなたの寿命をいただくんです」
町子 「えー、なんかやだわ。寿命、とられたくないもの」
黒い羽根「でも、あなたの寿命で誰かを救うことができるとしたら、それは素晴らしいことだとは思いませんか?」
町子 「そんなことができるの?でも、寿命を奪われた私は、どうなるの?」
黒い羽根「どうせ、あなたはもう助かりません。そのことはご存知ですね」
町子 「はい、それは承知してます」
黒い羽根「何か、やり残したことは?どなたか、ご家族はおありですか?」
町子 「やり残したこと。ないです。家族もいません」
黒い羽根「そんな、岡田町子さんだからこそ、ぜひ募金をお願いしたいんです」
町子 「えーと、その、一つだけ」
黒い羽根「はい?」
町子 「一つだけ、やり残したことがあるんです」
黒い羽根「ほう。それをやり遂げれば、募金にご協力くださると」
町子 「はい」
黒い羽根「心残りがあるとまずいのでね」
町子 「心残りが?そうなのね」
黒い羽根「ではお聞きしましょう。何が望みですか?」
町子 「昔、私にもフィアンセがいて。でも、私の都合で婚約を解消したんです」
黒い羽根「それで?」
町子 「どうしても、その山浦さんに。山浦浩二さんに、一目、会いたいです。会うことができなくても、遠くからでも一目見たい」
黒い羽根「もし、幸せな家庭を持っていたら?」
町子 「それでもいいです」
黒い羽根「もし、どん底の人生を歩んでいたら?」
町子 「それでもいいから」
黒い羽根「山浦さんとは、どうしてお別れしたんですか?」
町子 「私は自分の仕事を結婚によってダメにされるのがヤだったの」
黒い羽根「結婚より仕事をとったんですね」
町子 「でも失敗だった。結婚すれば仕事ができなくなるなんて、私の勝手な妄想だったし、結局あれほど追いかけてた写真の仕事はやめてしまったの」
黒い羽根「その間に、山浦さんとは会わなかったんですか?」
町子 「会おうと思えば会えたはずなんだけど。会ったら負けだと思ったのよ」
黒い羽根「わかりました。では、私の肩につかまって」
町子 「はい」

シーン4

町子 「え?ここは?」
黒い羽根「墓地ですね」
町子 「ということは、浩二さんは」
黒い羽根「残念ながら、早くに亡くなったようです。独身のまま」
町子 「私が、私が待っていてと、言ったんです。私のわがままで」
黒い羽根「彼は本当に待っていてくれていたんですね」
町子 「ああ、私は。私だけ生き残って、一体なんのためにこんなに長生きしてしまったんでしょう。山浦さんは、私のことをどう思っていたんだろう」
黒い羽根「では、本当はどう思っていたのか、確認しましょう」
町子 「そんなこと、できるんですか?」
黒い羽根「私はその道のプロ。山浦さんを呼び出すことだってできますよ」
町子 「会えるのなら、会いたい」
黒い羽根「ほら。山浦浩二さんが町子さんを迎えに来ましたよ」
町子 「え?浩二さんが?」
黒い羽根「何か聞こえませんか?」
町子 「ん?何か言っているんですか?」
黒い羽根「山浦さんが町子さんに話しかけていますよ」
山浦 「町子、ダメじゃないか!死神と一緒だなんて」
町子 「だめ、なんだか、ぼんやりしていて、声がはっきり聞こえないわ」
山浦 「俺はお前が幸せならそれでいいんだ。昔の事情なんてどうだっていい」
黒い羽根「山浦さん、昔ことははっきり覚えているぞと言っていますよ」
町子 「浩二さん。ごめんなさい。私がわがままを言ったばっかりに」
山浦 「町子、まだこっちに来なくていい。お前はもっと長生きしていいんだ」
町子 「え?なに?」
黒い羽根「山浦さんは、町子さんのことを許すと言っています」
山浦 「町子に生きていて欲しいんだ。それだけが僕の望みだ」
黒い羽根「もう頑張らなくていい、十分だ、と言っていますよ」
町子 「そうなのね。そうなのね」
山浦 「死神め。お前がどうしようと、俺は町子を守るからな」
黒い羽根「ああ、山浦さんは、もうあちらに行ってしまわれました」
町子 「ありがとう。もう思い残すことはないわ」
黒い羽根「では、いよいよ参りましょう」

シーン5

黒い羽根「はい。病室に戻りましたよ」
町子 「あ、う、苦しい」
黒い羽根「さあ、募金のお時間です」
町子 「い、痛いわ」
黒い羽根「そりゃ少しは痛みもありますよ。肉体から心が離れるんですから」
町子 「はぁ、はぁ、やっぱり、死ぬのは怖い」
黒い羽根「怖くないですよ。山浦さんもきっと来てくれます」
町子 「そうね、わかった」
黒い羽根「では、募金。いただきますね」
町子 「ちょっと待って」
黒い羽根「はい?」
町子 「誰を?誰を私の寿命で救うの?」
黒い羽根「それは答えられませんね。公園の野良犬かもしれませんし、病気に苦しむ子供かもしれません」
町子 「病気に苦しむ、子供、、、」
黒い羽根「さあ、岡田町子。お前の命が尽きる前に。さあ」
町子 「手紙!」
黒い羽根「ん?」
町子 「紗代ちゃんの手紙、読んでなかった」
黒い羽根「それがどうかしたのか」
町子 「これを読まないでは死んでも死にきれないわ。心残りはまずいんでしょ」
黒い羽根「ふん。まあいいさ」

手紙を広げる

紗代 「町子ちゃん。いつもありがとう。町子ちゃんがいつも励ましてくれるから、私は今日まで生きていられたよ。パパにもママにも言えてないけど、本当は、もう頑張るのに疲れちゃったんだ。でも、町子ちゃんが『また会おうね』って言ってくれるから、その小さな約束を守りたくて、今日も生きてる。いつもありがとう。いつも応援してくれてありがとう。いつも生きててくれてありがとう。また会おうね。紗代」
町子 「ああ、ああ、私は、まだ生きたい」
黒い羽根「それは無理だ」
町子 「私は後1日だって、生きたい。この命を使わせて欲しい」
黒い羽根「そのままでも、お前はもうすぐ死ぬんだ」
町子 「そうよね、わかった。じゃあ、せめて、この命を使う場所を決めさせて」
黒い羽根「それはできない」
町子 「その代わり今すぐ私の命を持って行ってもいいわ」
黒い羽根「今すぐ、だな」
町子 「うん。そうよ」
黒い羽根「わかった。条件を飲もう。誰を救いたいのだ」
町子 「吉村紗代ちゃんよ」
黒い羽根「その子の寿命はもうすぐ終わる。それでもいいのか」
町子 「かまわない」
黒い羽根「わかった。では、お前の命をいただく」

真田 「岡田さん!」
町子 「ああ、先生。私、行くんですね」
真田 「はい。痛みはありませんか?」
町子 「なぜか、もう痛くありません」
真田 「よかった。痛いの、嫌いですもんね」
町子 「ありがとう。あと、それと」
真田 「なんですか?」
町子 「紗代ちゃんのこと、応援してあげてください」
真田 「はい、もちろんです」

シーン6

黒い羽根「では参りましょう」
町子 「はい」

山浦 「町子。早かったね」
町子 「浩二さん。待たせました」
山浦 「いつも見ていたよ」
町子 「会いたかった」
山浦 「さあ、行こう」

シーン7

天の声「真田が町子の病室でたたずんでいると、そこに紗代が訪れた」

紗代 「先生!」
真田 「やあ、紗代ちゃん。今日はご機嫌だね」
紗代 「最近、ちょっと調子良くて、みんなをコレで撮ってるんだ」
真田 「カメラ、かっこいいね。でも、まだ無理はしちゃダメだよ」
紗代 「約束だもん。みんなを撮るんだ」
真田 「ありがとうね、紗代ちゃん」
紗代 「紗代、なんか元気をもらったような気がするんだ、カメラだけじゃなくて」
真田 「うん。そうだね」
紗代 「あのさ、町子ちゃん、急だったね」
真田 「そう、だね」
紗代 「なんか、まだ、この部屋にいる気がするんだ」
真田 「うん。じゃあ、お別れの挨拶をしよっか」
紗代 「わかった。ご挨拶する」
真田 「そうしよう」
紗代 「町子ちゃん。また会おうね」

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