朗読劇

忘れるのはやめにした(不問1:5分)

タイトル:忘れるのはやめにした 

不問1 5分

現代劇

 

眠れなくなった

今日もあの日のことが

頭の中でまた繰り返していた

時計を見なくても朝が近いのはわかっていた

自転車に乗った 行くあてなどなかったけど

動き出さなくてはならなかった

気持ちを置いてけぼりにできるならと

僕は精一杯ペダルを漕いだ

まさか未だに思い出すとは

もう何年経ったのだろう

それでも僕の気持ちは薄まりはしていなかった

空が白くなってきた

少し汗ばんで ようやく気持ちが

心の真ん中に戻ってきた気がした

さらにペダルを踏んだ

風を頬に当てて

きっと自分を取り戻せるはずだった

急に何かが込み上げてきて

スピードを上げた あれから

数えきれないほどの人に出会ったはずなのに

あなたに好きだと言えなかったことだけが

いつまでも忘れられない

日が登り出した

澄み切った空を見つめた

気持ちだけ僕から分離させて

そこにおいてくることはできなかった

あなたの笑った顔よりも

なんだか悲しい顔が思い浮かんだ

僕にとってその表情の方が

印象に残ってしまった

あれから 数えきれないほどの人に出会ったはずなのに

あなたに好きだと言えなかったことだけが

今も心の中にある

やっぱり忘れるのはもうやめた

あの日のことは

もう僕の一部なんだ

今度は家に向かって自転車を漕いだ

帰り道はゆっくり進んだ

でも気がつくとすぐに見慣れた場所にいた

あの日

きっとあなたは僕の答えを待っていた

でも僕はそれを曖昧にしたまま

背中を向けた

その背中にそっとおいてくれた手

その手の温かさを

今でも感じられる

これから 数えきれないほどの人に出会うだろうけど

あなたに好きだと言えなかったことを

生きた証にしてみよう

それが僕にとって

今一番大事な気持ちなんだと気がついた

忘れるのはこれでやめにしよう

明日も思い出せばいい

そしてこの気持ちと生きていこう

タグ

-朗読劇
-,

© 2024 アトリエゴリアス