タイトル:そのとき死神は黒い羽根を見せる
男声1、女声2、15分程度
アクション、恐怖
ファンタジー
永井明(33)偉大な父に育てられた少林寺拳法の達人、最近、両親が急死
直野梢枝(35)中国武術の八極拳の使い手、永井の腹違いの姉
山村恵美(42)資産家であり武道ビジネスに興味がある
シーン1
道場稽古中である
永井明 「山村さん、お引き取りください、そんな条件をのめるわけがない」
山村恵美「私の武道ビジネスで、先生の力をさらに世界に広げてみせますよ」
永井明 「興味がありませんね。お金稼ぎが目的ではないんです」
山村恵美「私、永井先生のためにご忠告にきたんです。命、狙われていますよ、死神にね」
永井明 「馬鹿なことを。冗談にしても不謹慎です。私の父はまだ亡くなったばかりですよ」
山村恵美「武道界においてあまりに偉大なお父上が突如亡くなられて、すぐにお母上も後を追うように。不幸続きですよね」
永井明 「何が言いたいんですか?」
山村恵美「死神の技と言われる必殺拳で有名なお父上は別格ですが、それにしても永井先生はお強い」
永井明 「山村さん。父の必殺拳はうわさにすぎませんよ」
山村恵美「しかしそれが本当だとしたら、永井先生も使えるんですよね、必殺拳」
永井明 「さて、どうでしょう。使えたとしても死神の技なんて私には使えませんよ」
山村恵美「いつか死神がここにきます。これ以上不幸がなければいいんですけど」
永井明 「少し、おふざけがすぎますね。私が手を出すことはありません。が、道場の者は、どうかわかりませんよ。それでも続けますか?」
山村恵美「あら怖い。私は空手はできませんから退散しますわ」
永井明 「うちは、少林寺拳法です」
山村恵美「はっ!永井先生。逃げましょう」
永井明 「ん?どうしました?」
山村恵美「私の言っている死神がきました」
永井明 「なんですって?」
シーン2
梢枝登場
直野梢枝「あら、なんでこんなところに資産家の山村恵美がいるんでしょう」
山村恵美「うるさいわね」
直野梢枝「お金稼ぎなら他でやりなさい。ここは私のものよ」
永井明 「梢枝さん。お久しぶりです」
山村恵美「永井先生、直野梢枝は今、次々と道場破りをしている、まさに死神です」
永井明 「山村さん、梢枝さんは、腹違いの姉なんです」
山村恵美「ええっ!」
直野梢枝「お父さんの道場は、私の道場でもあるのよ。わかった?山村恵美」
永井明 「梢枝さん。父が亡くなったとたん、わざと、昔ながらの道場破りだなんて派手な演出をして、一体何を考えてるんですか?」
直野梢枝「簡単なこと。あなたが隠し持っている必殺拳を奪うためよ」
山村恵美「彼女が死神と言われている理由はあまりに強いから。八極拳の使い手なんです」
永井明 「わかってます。梢枝さんの強さは、父にも匹敵する」
直野梢枝「私の八極拳なら、あんたに勝てる。今日は必殺拳の秘密を教えてもらうわよ」
永井明 「私は手を出しません。少林寺拳法では他流試合は禁じられているんです」
直野梢枝「なら一方的に、私に倒されなさい!」
山村恵美「待って!知り合いの新聞記者を呼ぶわ。証人は多い方がいいでしょ」
直野梢枝「ふーん、それもそうね。お金持ちのくせに役に立つこと言うじゃない、たまには」
永井明 「必殺拳はただのウワサです。そのような技は、私には必要ありません」
山村恵美「あの、先生、ちょっと」
永井明 「ん?」
シーン3
山村恵美「逃げましょう。先生」
永井明 「山村さん。私は逃げない。しかし戦わない」
山村恵美「そんなカッコつけてる場合じゃないですよ。直野梢枝は本気です」
永井明 「私だって本気だ。少林寺拳法には、力の伴わない正義は無力、愛のない力は暴力という教えがあります。私の力は悪と戦うためのものです」
山村恵美「直野梢枝は悪です。先生の道場を支配しようとしてる」
永井明 「それは山村さんだって同じでしょう」
山村恵美「同じ、かもしれませんが、私には私の正義があります。人を幸せにしてお金を稼ぐ。人を幸せにするために必要なことは全力で整える。そのために先生のお力と道場が欲しい。もちろん必殺拳についても知りたい。それが私の正義です」
永井明 「山村さん。あなたがもし武術家なら、恐らくあなたも無事ではないでしょう」
山村恵美「え?」
永井明 「逃げた方がいい。なぜなら、死神は直野梢枝ではなく、私の方だからです。あと、新聞記者は絶対呼んじゃダメですよ」
山村恵美「は、はい」
シーン4
壁に人がぶつかる音。
永井明 「おい!なんだ」
直野梢枝「あーあ、暇だから、イキのいい道場生と遊んでるのよ」
永井明 「なに!」
直野梢枝「もうちょっと鍛えてあげた方がいいんじゃない。死んでなきゃいいけど」
壁に人がぶつかる音。
永井明 「やめろ!」
直野梢枝「弱いね。やっぱ空手じゃダメなんだよ。私がみんな1から鍛えてあげるわ」
永井明 「梢枝さん。うちは少林寺拳法です。みんなを帰らせてもらいますよ」
直野梢枝「いいわよ、結果は同じこと」
永井明 「みんな帰れ!絶対に道場に入ってくるな!わかったな!」
直野梢枝「ふっ、人払いしたのは、負けるのが怖いからかしら?」
永井明 「後悔、しますよ」
直野梢枝「ウフッ、じゃ、いくわよ。はっ!」
永井明 「梢枝さん。なぜ、道場破りなんて。私への当てつけですか?」
直野梢枝「はっ!当てつけだって?そりゃそうでしょ!」
永井明 「なぜそんなまわりくどいことを。ふんっ!」
直野梢枝「うはっ!くそっ、必殺拳を奪うためよ!」
永井明 「必殺拳は死神の技ですよ。そんなもののために、どうして」
直野梢枝「あんたに、わかってたまるか!」
永井明 「私たちは、偉大な父を持つ兄弟ではないですか」
直野梢枝「私は、所詮、腹違い。偉大すぎるお父さんのせいで、私の人生は呪われた!」
永井明 「はいっ!」
直野梢枝「グゥッ。つ、強い。でも負けたくない。私は、お父さんに勝って、私を認めさせたかった」
永井明 「梢枝さんは十分に強い。こんなことする必要なんてない!はっ!」
直野梢枝「うるさい!私は、生まれながら、絶対に1番にはなれない人生だった!はっ!」
永井明 「ムンっ!私に勝ったとしても、一番にはなれませんよ」
直野梢枝「勝つ。そして必殺拳を!」
永井明 「ふんっ。まあ、必殺拳に頼らずとも、梢枝さんには負けませんけど」
直野梢枝「私は、あんたになんか、絶対に負けない!ヤー!」
永井明 「ええいっ!」
シーン5
壁にぶつかる音
直野梢枝「はぁ、はぁ、なのに、なのに、お父さんは死んで、あんたが道場を引き継いだ」
永井明 「梢枝さん。父を恨んでいるのですか?」
直野梢枝「はぁ、はぁ、そりゃ、そうよ。はぁ、はぁ」
永井明 「ならば、私たちは仲間です。だって父は、私の敵でしたからね」
直野梢枝「え?」
永井明 「強い方が上、それが武道です。私は父を超えていた。だが父は私を許さなかった。お前は危険すぎると」
直野梢枝「危険、必殺拳か?」
永井明 「必殺拳は死神の技。死神を従える強さがなければ、死神に取り憑かれる、だなんてこと真顔で言うんですもの」
直野梢枝「あんたは、その必殺拳を手に入れるために!」
永井明 「私は、必殺拳と自分の道場が欲しかった。それには、どうしても古臭い父が邪魔だった。もちろん母も」
直野梢枝「お父さん夫婦が、突然死んだのは、事故じゃなかったのか」
永井明 「あはっ、何言ってるんですか?そんな偶然あるわけないでしょ?意外に、頭お花畑なんですね、梢枝さんって」
山村恵美「なに?それ、どういうこと?」
永井明 「あれ?山村さん、いたんですね。残念です、大人しく帰ってればよかったのに」
直野梢枝「あ、あんた、せ、背中に黒い羽根が生えてるわよ」
永井明 「おお!やはり見えますか?そうなんですよねぇ」
山村恵美「ほ、ほんとだっ。黒い羽根」
永井明 「何人ヤってからかなぁ?もう覚えてないや。命を奪おうとすると、相手から、背中に羽根が見えるって言われるようになったんですよね、なんでかなぁ」
山村恵美「や、やめてよ。変な冗談。こ、怖いわ」
永井明 「大丈夫ですよ。痛いなんて思わせませんから。必殺拳は本物です。じゃあ、山村さん、梢枝さん、さようなら。バイバイ」