タイトル:エプロン取ったら
男1 女1 5分
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🟠女「いらっしゃいませ!お客様」
🟢男「こんにちは。今日もエプロン似合ってるね」
🟠女「あ、いつもありがとうございます!」
🟢男「今日は、あるかな?いつもの」
🟠女「はい、ございますよ!」
🟢男「ありがとう。いくつあるかな」
🟠女「まだ5つ、ありますね」
🟢男「じゃあ、今日は5つ持って帰っていい?」
🟠女「そうですね。そのクロワッサン買ってくださるの、お客さんだけですし。大丈夫ですよ!」
🟢男「このクロワッサンさ、家に帰って半分にしてカスタードクリーム乗っけてさ。ほんと美味しいんだけどな」
🟠女「へー。そうなんだ。そうやって召し上がっていただいてたんですね」
🟢男「いろんな食べ方を工夫したんだけど、カスタードクリームが一番美味しかったんだ」
🟠女「研究熱心なんですね!ずっと買ってくださって」
🟢男「もう2年かな。やっぱり、ここのクロワッサンじゃないとさ」
🟠女「別に特別なクロワッサンじゃないですって」
🟢男「そう?」
🟠女「いつも褒めてくださるのは嬉しいんですけど。2年間も」
🟢男「ここで買うクロワッサンが一番好きなんだ」
🟠女「なんで、ですか?聞くチャンス、もうないと思うんで、教えてもらっていいですか?」
🟢男「ここのパン屋さんっていつも賑わってて、だけどいつも売れ残ってるパンがあって、それがこのクロワッサンなんだ」
🟠女「人気なかったんですよね。今じゃ、お客さんが買ってくれることを計算して作ってるぐらいなんですから」
🟢男「え?そうなんだ」
🟠女「あ、今のは秘密ですよ」
🟢男「大丈夫、大丈夫。秘密も何も、今日で閉店だもんね」
🟠女「それで?」
🟢男「うん?」
🟠女「で、どうして売れ残りのクロワッサンを買ってくれてたんですか」
🟢男「仕事の帰りにさ、ここによって、人気の店だけど、閉店間際に行けば、こうやって、君と話せるじゃない?」
🟠女「え、と。あ、そうですね!いつもありがとうござます!」
🟢男「話しかけるチャンスを作ってくれるんだ。このクロワッサンがね」
🟠女「はい!私といつもお話してくださってます」
🟢男「それにクロワッサン買うとさ、君が笑ってくれるじゃない」
🟠女「はい!お客様には笑顔で接客してます」
🟢男「そうだよね。俺、お客さんだもん。それだけだよね」
🟠女「嘘ですよ。お客様がいつも笑顔で話しかけてくださるの、私、ずっと嬉しかったんですよ」
🟢男「ありがとう」
🟠女「でも、もう別のパン屋さん探さなきゃですね」
🟢男「俺、この近くで勤めてて、ここでクロワッサンを買って家で食べるんだけど」
🟠女「けど?」
🟢男「俺もさ、今日で仕事おわりなんだよ。たまたまね」
🟠女「どうされたんですか?」
🟢男「クビだよ。ただのクビ。仕事のできないやつはいらねーってさ」
🟠女「そうなんですね。じゃあ、もうこの街には?」
🟢男「縁がなかったんだろうね」
🟠女「そっかぁ」
🟢男「ごめんね。そして、今まで本当にありがとう」
🟠女「なんか、寂しいな」
🟢男「そうだね。俺もこの街を離れるのは、正直寂しい」
🟠女「あのー。クロワッサン、五つは多くないですか?」
🟢男「そうだね。確かに多いや。でも大丈夫。俺のために焼いてくれたんだもの。ちゃんと買って帰るよ」
🟠女「2つ!」
🟢男「ん?何?」
🟠女「5つのうち2つ、食べさせてもらえませんか?」
🟢男「え、いいけど?はい、どうぞ」
🟠女「じゃなくて!」
🟢男「じゃなくて?」
🟠女「その、あの。カスタードクリーム乗っけてください!」
🟢男「あ。ああ。そういうこと?」
🟠女「はい。そういうことです!」
🟢男「あのさ」
🟠女「はい!」
🟢男「俺、山田って言うんだ」
🟠女「山田さん。はい!」
🟢男「な、名前は?」
🟠女「あ、私、愛子です」
🟢男「愛子ちゃんか」
🟠女「はい!」
🟢男「2年も毎日会ってたのに、ふふふ」
🟠女「名前も知りませんでした、ふふふ」
🟢男「もっと知りたい」
🟠女「私もです!」
🟢男「待ってるね」
🟠女「エプロン取ったら行きますね」