タイトル:ルイボスティー
男1 女1 10分
現代劇 夫婦
🟢男「あのさ」
🟠女「なに?」
🟢男「ルイボスティーがないんだけど」
🟠女「へ?」
🟢男「ないから。ルイボスティー」
🟠女「何それ?買ってこいってこと?」
🟢男「言わなきゃわかんない?」
🟠女「あなたね。いつから私の子供になったのよ。私、あなたのお母さんじゃありません」
🟢男「はいはい。じゃ、ルイボスティー、買っておいてね」
🟠女「あなたが買ってこれば?」
🟢男「え?何?朝から何をそんなに怒ってるの?」
🟠女「だって、買い物だって、何だって、当たり前みたいに私に押し付けてんじゃん」
🟢男「押し付けてるか?」
🟠女「違うの?」
🟢男「お前が自分で選びたいって言ってただろうが。好みの商品とか、安いお店とか」
🟠女「そりゃ、そうなんだけど」
🟢男「だったら何が不服なんだよ」
🟠女「私、してあげてばっかりでさ。してもらうことなんて、全然ないしさ。そういうの不平等っていうかさ」
🟢男「あのさ、それ、朝っぱらからする話?俺、やりたいことあるからさ。後にしてくれる?」
🟠女「今する話なの!」
🟢男「何でよ」
🟠女「20年間。ずっとそうやってきたの。あなたは無意識だったかもしれないけど」
🟢男「そう、だね」
🟠女「私は20年間、ずっと、あなたのお母さんだった」
🟢男「でも、お前は、何かしてもらうのは照れくさいっていうじゃんか」
🟠女「照れくさいのは本当よ。でも、してもらいたくないわけじゃないの。一人の人間として、大事にされてないって思うのはツラい」
🟢男「大事にしてないつもりはないさ」
🟠女「そう?」
🟢男「確かにお前に甘えてきた部分はあると思うけど、俺だって自分の時間も犠牲にして仕事してきたんだよ」
🟠女「だって、あなたは好きなことを仕事にしてるじゃない」
🟢男「なんだよ、それ。好きなことだろうと仕事は仕事だろ。好きなことしちゃいけないっていうのか?」
🟠女「そうじゃないけど」
🟢男「その好きなことで稼いでいるから、家族で飯が食えてるんじゃないのか?」
🟠女「そう、だね。あり、がとう」
🟢男「いや別に、感謝して欲しいと言ってるわけじゃないんだけど、俺が一方的に甘えてるみたいに言われるのは違うと思うんだよ」
🟠女「わかったわよ。私がルイボスティーでも黒豆茶でも、言われた通りに買ってくればいいんでしょ」
🟢男「そうなんだけど、違うんだよなあ」
🟠女「何がよ!」
🟢男「その、すねるとか、怒るとかじゃなくて、気持ちよく家族のために買い物に行って欲しいわけ。なんでそれができないの?」
🟠女「いいわよ。私が悪いんでしょ。ホントに悪かったわ。すみませんでした」
🟢男「どうして、そうなるんだろ」
🟠女「私の家はさ、大家族で、10歳の時も15歳の時も18の時も、家には赤ちゃんがいて、ずっとお世話をしてきたの」
🟢男「知ってるよ」
🟠女「結婚して20年。私って、まだ、ずーっと、お世話ばっかりしてる」
🟢男「でもさ、10歳の時も、15歳の時も、18歳の時も、ずーっと、お世話されてもいたんじゃないの?」
🟠女「え?どういうこと?」
🟢男「お前のお父さんお母さんだってお前の面倒見てるはずだし、俺だって20年間家族を支えてきたんだよ」
🟠女「うーん。そう、ね。確かに」
🟢男「ルイボスティーがなくなってるって言っただけで、ここまで被害者ヅラされても、困るんだよね」
🟠女「ごめん」
🟢男「ま、俺も悪い部分はあるんだろうけど」
🟠女「あ、あの」
🟢男「なに?まだなんかあるの」
🟠女「あのさ、ホント忙しいところ、ごめんなんだけど」
🟢男「え?」
🟠女「一緒に、買い物、してくれない?」
🟢男「なに?現金なら渡すけど」
🟠女「そうじゃなくて」
🟢男「どういうこと?」
🟠女「私、今思ったんだけどさ。ルイボスティーがないんだけどって、言われるよりね。ルイボスティーがないから一緒に買いに行こうかって言われたかったんだんだと思うの」
🟢男「一緒に買い物行けばいいわけ?」
🟠女「そうじゃなくて、実際には私一人で買い物行った方が経済的だし、効率もいいんだけどね。そういう風に言ってもらえたら、今よりもっと、家族のために頑張れるんだろうなって」
🟢男「ホントは一緒に行かなくてもいいんだけど、買い物一緒行こうかっていう感じで、ルイボスティーが切れてることをお前に伝えろってこと?」
🟠女「うん。そう」
🟢男「うーん。さすがにめんどくさくない?」
🟠女「え、何で?」
🟢男「だって、俺が、ルイボスティーがないんだけどってお前に伝えた場合と、何にも違わないと思わない」
🟠女「違うよ」
🟢男「違わないよ。この違わなさを押し切って、あえてめんどくさいやりとりをしたいっていうのは、お前のわがままじゃないか」
🟠女「わがまま、だなんて。ひどい」
🟢男「こうしてる間にも、俺の貴重な時間は消費されてるわけだよ。お前のわがままに付き合って」
🟠女「ごめんなさい。たかがルイボスティーぐらいで、こんなことに」
🟢男「俺も学んだよ。今度からはルイボスティーが切れていても、お前には話しかけない」
🟠女「そんな」
🟢男「自分で、ルイボスティーななくなってることに気がつけば、こんなことにならなかったんだろ」
🟠女「そう、だけど」
🟢男「じゃあな」
🟠女「ごめん。ちょっと待って」
🟢男「うるせーな。まだなんかあんのかよ」
🟠女「あのね。ホントはさ」
🟢男「ホントは何?」
🟠女「私、知ってたの。ルイボスティーがないこと」
🟢男「え?じゃ、なんで買ってこないの?」
🟠女「やろうと思えば、たくさんストックすることもできるんだけどさ」
🟢男「何?俺のこと試そうとしてたわけ?」
🟠女「違うの。試すとかじゃなくて。私に振り向いてもらえるきっかけになるかなって」
🟢男「振り向くも何も。俺たち20年間、夫婦で、ずっと家族じゃない」
🟠女「私、本当にこの家族に求められてるのかなって、不安になって」
🟢男「じゃ、どうすりゃいいんだ。俺はいつもお前と向き合ってるつもりなんだけど」
🟠女「だから、だからさ。私は、話がしたかったの」
🟢男「話って?」
🟠女「ルイボスティーがなくなってるっていう報告とかじゃなくて、会話がしたくて」
🟢男「オッケー。わかった、ごめん。今度から気を付ける」
🟠女「何を?どう気を付けてくれるの?」
🟢男「報告だけじゃなくて、会話する。甘えるだけじゃなくて、尊重する」
🟠女「ホントに?」
🟢男「ただし、今度は俺の番?」
🟠女「え?」
🟢男「ルイボスティーがないって気がついた時は、ちゃんと買っておく、できればストックも」
🟠女「はい」
🟢男「オッケー?」
🟠女「わかった」
🟢男「俺さ、お前のことすごく理解してるつもりだし、お前のやることはなんでも応援してるつもりだよ」
🟠女「うん。わかってる」
🟢男「だから、俺のことも信用して欲しいし、俺のことを応援していて欲しい。いい?」
🟠女「はい」
🟢男「じゃね」
🟠女「あの、また、また今度、一緒に買い物行こう」
🟢男「いいよ。この後、お昼前に出かけて、食事して帰ろうか」
🟠女「うん」
🟢男「オッケー。そのために一仕事終わらせるから」
🟠女「ありがとうね」
🟢男「外で何食べるか考えといて」
🟠女「はい。待ってるね」
🟢男「おう」
🟠女「あのね、私、あなたの奥さんでよかった」
🟢男「俺も、そう思うよ。じゃね」
🟠女「うん」